社内コラム|令和7年12月号
「助けたいから助ける」心
内側から湧く動機は、どう育つのか
公開日:2025年12月18日 / 発行:株式会社ぐりーん
年の瀬は、1年をふりかえる季節です。今年、誰かのために動いた場面を思い出すと、「頼まれたから」「仕事だから」だけでなく、「放っておけなかったから」という気持ちもあったのではないでしょうか。今回は、心理学の考え方をもとに、内側から湧く「助けたい」という動機について考えます。
📷 職員と子どもたちの活動の様子はInstagram(@greennara2026)で発信しています。
良いことをする理由は、ひとつではない
人が行動する理由は、大きく2つに分けて考えられます。ひとつは、褒められる・評価される・叱られないといった、外からの理由による「外発的動機づけ」。もうひとつは、楽しい・やりたい・大切だと思うといった、自分の内側から湧く「内発的動機づけ」です。
どちらが良い・悪いというものではありません。仕事にはルールや評価があり、外からの理由で動く場面も当然あります。ただ、長く続く行動や、困ったときにもう一歩踏み出せる力は、内側の動機に支えられていることが多いと考えられています。
内側の動機を支える3つの欲求
心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」では、人の内発的な意欲を支えるものとして、次の3つの基本的な欲求を挙げています。
- 自律性:自分で選び、自分で決めているという感覚
- 有能感:「できた」「役に立てた」という手応え
- 関係性:周りの人とつながり、受け入れられているという安心感
この3つが満たされると、人は外から言われなくても自然に動きたくなる、というのがこの理論の考え方です。
(参考:Ryan, R. M., & Deci, E. L.(2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being.
American Psychologist, 55(1))
「やらない善より、やる偽善」——動機は育っていく
「本心からでないなら、良いことをしても偽善ではないか」と悩む人もいます。けれど自己決定理論では、最初は外からの理由で始めた行動でも、意味を理解し、自分の価値観と結びつくにつれて、少しずつ「自分の動機」に変わっていくと考えます(これを「内在化」と呼びます)。
最初は「仕事だから」で始めた声かけが、子どもの笑顔を見るうちに「この子のために、もっとこうしたい」に変わっていく。支援の仕事では、そんな変化がよく起こります。きっかけは何であっても、続けるなかで「助けたいから助ける」心は育っていくのです。
子どもの「やりたい」を育てる関わり
この考え方は、子どもへの支援にもそのまま生かせます。ぐりーんの現場で大切にしているのは、次のような関わりです。
- 選べる場面をつくる:「どっちからやる?」と小さな選択肢を用意し、自分で決めた経験を積み重ねる(自律性)
- できたことを具体的に伝える:「すごいね」だけでなく「最後まで座って聞けたね」と、行動を言葉にする(有能感)
- 安心できる関係を先につくる:失敗しても大丈夫と感じられる関係があってこそ、挑戦が生まれる(関係性)
ご褒美シールなどの外からの工夫も、行動のきっかけとして役立つ場面があります。ただ、もともと本人が楽しんでいる活動にご褒美を付けすぎると、かえって意欲が下がることがあるとも報告されています。きっかけづくりの工夫と、本人の「やりたい」を育てる関わりを、子どもの様子に合わせて使い分けることが大切です。
「助けたい」を、チームで続けるために
支援する側の大人にも、同じ3つの欲求があります。どんなに「助けたい」気持ちが強くても、ひとりで抱え込むと、その気持ちはすり減ってしまいます。
ぐりーんでは、支援の方法を職員同士で相談して決めること(自律性)、子どもの小さな成長をチームで共有すること(有能感)、困ったときに「助けて」と言える関係をつくること(関係性)を大切にしています。子どもを助けたい職員を、職場全体で支える。それが、内側から湧く動機を長く保ついちばんの方法だと考えています。
おわりに
「助けたいから助ける」心は、生まれつき決まっているものではなく、経験と関係のなかで育っていくものです。今年いちばん心が動いた支援の場面を思い出しながら、来年もまた、子どもたちと一緒に「やりたい」を育てていきましょう。
